世田谷・生涯大学の講演会の講師として,わたしを紹介してくださったのはDさんです。このDさんは,生涯大学の講師としてすでに16年(21年?記憶が定かではない)もお仕事をなさっている方です。たまたま高校が同窓だったことがご縁で知り合いになりました。日本近代文学がご専門です。講演会にはそのDさんもお出でくださいました。
数日前にメールで,講演会のあとビールでも飲みませんかというお誘いがあり,「喜んで」と応答。生涯大学は世田谷線の若林から歩いて数分のところにあります。ですから,三軒茶屋はDさんにとっては乗換駅でお馴染みのところ。Dさんの仰るには,三軒茶屋に美味しいおそばを食べさせてくれる小さなお店がある,というのでそこを目指しました。しかし,開店は午後5時30分から,と店の前に書いてあります。まだ,小一時間はある。
じゃあ,三軒茶屋の裏路地でも散策しませんか,と誘ってくださる。わたしは,学生時代もこちらの方にはきたことがないので,まったく土地勘がありません。最近は,田園都市線沿線に住むようになってから三軒茶屋はお馴染みの駅名にはなりましたが,いつも通過するところであって,降り立ったことがありません。まるで未知の土地です。ですから,喜んでお供します,とわたし。Dさんは,毎日,少しでも多く歩くことを楽しみにしているとか。ならば,わたしも望むところとばかりに,おそば屋さんの開店時間まで,一緒にあちこち散策することにしました。
三軒茶屋の駅周辺はとても複雑な構造になっていて,田園都市線と世田谷線の「三軒茶屋」の駅は少しばかり離れたところにあります。田園都市線の三軒茶屋の駅は国道246号線の下にありまずが,世田谷線の駅は,もう一本裏通りに面しています。その国道246号線と一本裏通りの間に,むかしながらの飲食街が密集しています。まさに,敗戦直後にできた飲食街がそのまま残っているという感じです。大通りから一つ角を曲がると急に道が細くなり,さらに一つ曲がるともっと細くなる。しまいには,人がすれ違うのが精一杯というような,いわゆる裏路地に入っていきます。
でも,不思議なことに,陰湿な雰囲気はまるでなく,とても健康的(これは言い過ぎか)とさえ言えるほどの,活気のある飲食街です。どの店も準備中で,店の人たちもせわしなく準備に追われている姿がまるみえです。ですから,歩いていても楽しい。店のなかが丸見えのところなどは,お客さんが入っていると思って入ろうとしたら,「ただいま賄い飯を食べているところで,すんません」という。おやおや,お客さんだと思ったら,店員さんたちだった。
そんな風にして歩いていたら,この中に面白い小さな食材屋さんがありますが,立ち寄ってみますか,とDさん。そういう店は見るだけでも楽しいので,ぜひに,とお願いする。ほんとうに小さな店で,間口も2間くらいはあるのだろうか,両側に商品を並べて,真中が通路になっていて,人がすれ違うのがやっと。奥行きは4間くらいだろうか。そこにびっしりと食材が並んでいる。
入ってすぐに驚いたのは,「金トビ印のうどん,そうめん」が置いてあるではないか。これはわたしが大学に入ったころに,郷里(愛知県豊橋市)で美味しいと評判だったものです。ですから,郷里に帰省するたびにたくへん買い込んで東京に持ち帰り,夜食にして,その美味を満喫した記憶がいまも鮮明に残っています。もう,躊躇することなく買い求めました。
そして,もう一歩奥まったところに足を踏み入れたら,またまた驚きがありました。渥美半島の沢庵漬けが真空パックに入って売られているではありませんか。しかも,安い。スーパーで売っている沢庵は驚くほど高い。ですから,これも即,購入。案内してくださったDさんは,なにを隠そう,この渥美半島の出身の人です。いまは田原市になりましたが,以前は,渥美郡神戸(かんべ)村のご出身。わたしの大伯母もたしか神戸村出身の人だったと記憶する。わたしの母の在所もその近くです。ですから,ただ,ただ,懐かしいだけの衝動買い。
他にも,珍しい特産品が少しずつ並んでいる。見るだけでも楽しい。Dさんも,隅から隅まで,まるで品定めをするかのようにチェックをしていらっしゃる。そういえば,渋谷に女性のためのミーティング・ルーム兼バーを開業していたことのあるDさんです。わたしも2回ほどお邪魔したことがあります。そのときの手料理がまことに美味だったことを思い出しました。考えてみれば,それらの食材購入から調理までDさんはやってらしたわけだから,その意味ではプロだった,と。
そんな楽しい散策をしている間に,小一時間はすぎ,おそば屋さんも開店。その日の最初のお客さん。ちょうどのどが乾いていたので,ビールの美味しかったこと。そして,当然のことながら,そばの美味しかったこと,などなど。そこでは,Dさんが住んでいらっしゃる根岸の町と正岡子規の話に華が咲きました。この話はまたいつか機会を改めて,書いてみたいと思います。
三軒茶屋の一角に,大都会とはとても思えない裏露地がいまも残っていて,敗戦直後の雰囲気がそのまま漂っている飲食店街があることを知り,びっくり仰天。ここは古い記憶を刺激してくれる面白い場所ですので,また,ぶらりと息抜きにやってこようかと思っています。Dさん,ほんとうにいいところを案内してくださり,ありがとうございました。こころからお礼を申します。
またひとつ,自己を超えでる経験をさせていただきました。生きていることの内実。生の源泉。それらに「じか」に触れることの愉しさ。Dさんに感謝。
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数日前にメールで,講演会のあとビールでも飲みませんかというお誘いがあり,「喜んで」と応答。生涯大学は世田谷線の若林から歩いて数分のところにあります。ですから,三軒茶屋はDさんにとっては乗換駅でお馴染みのところ。Dさんの仰るには,三軒茶屋に美味しいおそばを食べさせてくれる小さなお店がある,というのでそこを目指しました。しかし,開店は午後5時30分から,と店の前に書いてあります。まだ,小一時間はある。
じゃあ,三軒茶屋の裏路地でも散策しませんか,と誘ってくださる。わたしは,学生時代もこちらの方にはきたことがないので,まったく土地勘がありません。最近は,田園都市線沿線に住むようになってから三軒茶屋はお馴染みの駅名にはなりましたが,いつも通過するところであって,降り立ったことがありません。まるで未知の土地です。ですから,喜んでお供します,とわたし。Dさんは,毎日,少しでも多く歩くことを楽しみにしているとか。ならば,わたしも望むところとばかりに,おそば屋さんの開店時間まで,一緒にあちこち散策することにしました。
三軒茶屋の駅周辺はとても複雑な構造になっていて,田園都市線と世田谷線の「三軒茶屋」の駅は少しばかり離れたところにあります。田園都市線の三軒茶屋の駅は国道246号線の下にありまずが,世田谷線の駅は,もう一本裏通りに面しています。その国道246号線と一本裏通りの間に,むかしながらの飲食街が密集しています。まさに,敗戦直後にできた飲食街がそのまま残っているという感じです。大通りから一つ角を曲がると急に道が細くなり,さらに一つ曲がるともっと細くなる。しまいには,人がすれ違うのが精一杯というような,いわゆる裏路地に入っていきます。
でも,不思議なことに,陰湿な雰囲気はまるでなく,とても健康的(これは言い過ぎか)とさえ言えるほどの,活気のある飲食街です。どの店も準備中で,店の人たちもせわしなく準備に追われている姿がまるみえです。ですから,歩いていても楽しい。店のなかが丸見えのところなどは,お客さんが入っていると思って入ろうとしたら,「ただいま賄い飯を食べているところで,すんません」という。おやおや,お客さんだと思ったら,店員さんたちだった。
そんな風にして歩いていたら,この中に面白い小さな食材屋さんがありますが,立ち寄ってみますか,とDさん。そういう店は見るだけでも楽しいので,ぜひに,とお願いする。ほんとうに小さな店で,間口も2間くらいはあるのだろうか,両側に商品を並べて,真中が通路になっていて,人がすれ違うのがやっと。奥行きは4間くらいだろうか。そこにびっしりと食材が並んでいる。
入ってすぐに驚いたのは,「金トビ印のうどん,そうめん」が置いてあるではないか。これはわたしが大学に入ったころに,郷里(愛知県豊橋市)で美味しいと評判だったものです。ですから,郷里に帰省するたびにたくへん買い込んで東京に持ち帰り,夜食にして,その美味を満喫した記憶がいまも鮮明に残っています。もう,躊躇することなく買い求めました。
そして,もう一歩奥まったところに足を踏み入れたら,またまた驚きがありました。渥美半島の沢庵漬けが真空パックに入って売られているではありませんか。しかも,安い。スーパーで売っている沢庵は驚くほど高い。ですから,これも即,購入。案内してくださったDさんは,なにを隠そう,この渥美半島の出身の人です。いまは田原市になりましたが,以前は,渥美郡神戸(かんべ)村のご出身。わたしの大伯母もたしか神戸村出身の人だったと記憶する。わたしの母の在所もその近くです。ですから,ただ,ただ,懐かしいだけの衝動買い。
他にも,珍しい特産品が少しずつ並んでいる。見るだけでも楽しい。Dさんも,隅から隅まで,まるで品定めをするかのようにチェックをしていらっしゃる。そういえば,渋谷に女性のためのミーティング・ルーム兼バーを開業していたことのあるDさんです。わたしも2回ほどお邪魔したことがあります。そのときの手料理がまことに美味だったことを思い出しました。考えてみれば,それらの食材購入から調理までDさんはやってらしたわけだから,その意味ではプロだった,と。
そんな楽しい散策をしている間に,小一時間はすぎ,おそば屋さんも開店。その日の最初のお客さん。ちょうどのどが乾いていたので,ビールの美味しかったこと。そして,当然のことながら,そばの美味しかったこと,などなど。そこでは,Dさんが住んでいらっしゃる根岸の町と正岡子規の話に華が咲きました。この話はまたいつか機会を改めて,書いてみたいと思います。
三軒茶屋の一角に,大都会とはとても思えない裏露地がいまも残っていて,敗戦直後の雰囲気がそのまま漂っている飲食店街があることを知り,びっくり仰天。ここは古い記憶を刺激してくれる面白い場所ですので,また,ぶらりと息抜きにやってこようかと思っています。Dさん,ほんとうにいいところを案内してくださり,ありがとうございました。こころからお礼を申します。
またひとつ,自己を超えでる経験をさせていただきました。生きていることの内実。生の源泉。それらに「じか」に触れることの愉しさ。Dさんに感謝。
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